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2008年10月
Report & Information
GLOBAL 森重 行敏
<BOOK & PERFORMANCE>
図解日本音楽史
田中健次著 (東京堂出版 本体2,600円+税)
同著者による『ひと目でわかる日本音楽入門』の改訂版ともいえる企画。
ともかく複雑な日本音楽の各種目や楽器について、見開きで図解することに徹した内容。
いうならば受験用の日本史、世界史参考書によくあるアイディアで、全貌を素早く把握したい向きには好都合といえる。
著者自身によると前著に対しての批判も多かったとのことだが、一部の専門家のためでなく、
広く知識を共有するためにはこうした企画がもっと練られて当然であろう。
日本の学問風土では専門性を重視するあまり、一般向けの概説がとかく等閑視されがちであるが、
最新の研究成果と定説の乖離はどの分野にも起こりがちであり、それを恐れていてはむしろ常識のレベルアップすら進まないだろう。
そのあたりの事情は本書のあとがきに表明されているとおりだと思われる。
ともかくこの本に書かれていることは常識として誰でも知っている、といい切れる時代にならなければいけないはずであるが、
それがなかなか実現しないとしたら、日本の音楽が抱える問題はやはり大きいといわなければならない。
流行り唄五十年
添田知道著、小沢昭一解説 (朝日新書 本体940円+税)
唖蝉坊は歌うと副題された昭和30年刊の復刻版。
著者は明治、大正期に演歌の始祖といわれた添田唖蝉坊(あぜんぼう)の長男で、自らも演歌師として活躍した。
唖蝉坊の名を知る人ももはや少ないかもしれないが、レコードすらなかった当初、
街角で次々に世相を歌っては歌詞カードを売り歩いた演歌師こそ、今でいえばニュースキャスターそこのけの人気者だったようだ。
そうした唄の多くは替え歌も含め全国に伝播し、庶民の音楽文化を形作っていた。
ストライキ節、ラッパ節、むらさき節、ノンキ節など、それらの歌詞は社会批判から心中の哀歌まで、文字どおり世相を反映している。
今、読むと現在の新聞を読んでいるかのような事件ばかりで、世の中まるで進歩していないことに唖然。
残念ながら楽譜はないが、小沢昭一が何曲か歌ったCDの付録で雰囲気はわかる。
ラフガイド・トゥ・ザ・ミュージック・オブ・ジャパン第2弾
(リスペクトレコード RES-141 2,800円)
イギリスで九年前に出された第1弾は、国元武春に始まりチンドンサウンドで終わるという内容で、
イギリス人の見たこれぞ日本発のおもしろワールドミュージックという選曲の妙が効いていた。
今回発売された第2弾は牛深ハイヤ節に始まり、雅楽や声明もあれば東京ブギウギにロックバンドもという構成で、前作より幅が広い。
選者によると80年代の日本のイメージはコピー文化で、Jポップはダサかった。
ところが今の日本はクールでかっこいいイメージだというから時代は変わったのかもしれない。
日本人の気付かない日本の姿を知ることのできるおすすめの一枚には違いない。
SCHOOL 佐野 靖
<BOOK REVIEW>

文化中心音楽療法
ブリュンユルフ・スティーゲ著/阪上正巳ほか共訳 (開成出版、本体3,200円+税)
阪上正巳、井上勢津、岡崎香奈、馬場存、山下晃弘の5人によって訳された本書は、理論的にも実践的にも、
現代の音楽療法界を先導するブリュンユルフ・スティーゲによる包括的な理論書で、
「前提」「実践」「含意」「探究」という4部、12章から構成されている。
内容的な特徴としては、学際性や現代性、文化感受性、そして二項対立を超えて新たな道を探究するスタンス、
ならびにオープンな対話と多声的な議論をあげることができよう。
本書を貫くコンセプトは、「文化中心音楽療法」(culture-centered music therapy)。
これについて、訳者の一人阪上は要約するのは難しいとしながらも、あえて、
「それは<文化としての音楽療法>という方向性を意識しながら、
音楽療法をますます社会・文化的な文脈へと開いていこうとする考え方であるといえるのではないか」とまとめている。
ただし、短絡的に、例えば日本の音楽療法だからと言って、日本の音楽文化を導入すれば済むというものではない。
著者は、それを「文化特異的音楽療法」と呼んで区別している。
「文化中心音楽療法」は、そうした「文化特異的音楽療法」を含みつつ、それを超えて、クライエントの置かれたコンテクスト、
シチュエーションを変えようとするものである。
著者の言う「文化中心性」は、
「音楽療法の新しい実践と既存の実践の両方を新鮮なやり方で理解する道を発展させる」ために示された考え方である。
音楽を「出来事と活動の両方」でとらえる著者は、原音楽性、音楽(musics)、
ミュージッキング(musicking)による興味深い「音楽トライアングル」を提示している。
原音楽性とは「系統発生論のなかで展開される人間の能力としての音楽」であり、
音楽とは「文化の歴史のなかで作られた人為的産物としての音楽」を指す。
そして、「音楽すること」という動詞形としてのミュージッキングは「極微発生としての音楽」である。
著者によれば、極微発生的な発現の底に、系統発生に由来する人間の原音楽性と、
文化の歴史とともに多様に形成された複数の音楽とが個体発生に及ぼす影響が見て取れるという。
つまり、「個体発生においては、人間としての原音楽性に基づき、
特定の音楽を用いることによってミュージッキングを行う」ととらえることができるのである。
巻末には、「単にことばの定義を集めたものではなく、ことばの見方を表した」ものとして「用語集」が付けられている。
「文化受容」「アクション・リサーチ」「コミュニティ音楽療法」「生態学的音楽療法」「音楽性」「再帰性」など59個のキーワードの概念が、
本書における議論に引き付けて説明されていて、読み手、学び手にとっては大変ありがたい。